名もなき秀作「名もなき魔王」

2019年春のゲムマで発売される 蓑竹屋GAMES 様の「名もなき魔王 リバイズドエディション」のレビュー、感想です。特殊な競りをファンタジーと戦略に富んだ戦いにギュギュっときれいにまとめた秀作です。

デザイン蓑竹屋
イラスト蓑竹屋
人数3~4人
時間90~150分
年齢12歳~
価格2800円
ブース番号 2019春 土-W28 
予約http://minotakeya.biz/namonaki_RV/RV_51.html

はじめに

こんなに面白いのに、どうして有名じゃないのだろう。
知名度はあるものの世に知られていないデザイナーというのはゲームマーケットにおいて一定多数いる。しかしながらそういうデザイナーにはピッタリと張り付いて離れないファンが居るというのもまた事実だ。

そもそもゲームマーケットでは「稼ぐため」というより、世に自分の作りたいと思うゲームを出したいという意欲の方が強いため、かなり個性的な作品が多い。そのため「本当に自分に合ったゲーム」というものに出会える素晴らしい機会だ。

当たり前だが、商業主義的にゲームを作ろうとするのであれば出来る限り多くの人間に”ウケる”ようにゲームを作り客層は増やしたほうが良い。
その結果、市販されているゲームは誰でも楽しいという感覚が残り、「これだ!!」と思わせるようなボードゲームに出逢えることは少ない。

話が逸れた。
私がこのデザイナーと出会った経緯は勇ヒノという作品からだ。
本作もこのデザイナーの作品であるのだが、確か最初の感想は「こんなにクオリティが高いのに、なんでこんなに安いんだ」という驚きだった。

ゲームマーケットの紹介ページを見て、他者とのインタラクションや箱庭的に楽しめるソロプレイ感、きれいなアートワーク等、すべて込で確か3000円という価格。
なんだか狐につままれているようだ。

「私が知らないだけで人気作に違いない」
と思いゲームマーケットの購入開始時間になるや駆け足でそのブースへ直進した。
既に待機列があることも覚悟の上で本まで持参して向かったのだ。
しかしながらブースには未だ人気もなく、普通に購入出来てしまい拍子抜けしてしまった。
大変失礼ながら昨今よく見かける、デザインだけ先駆けてしまいコンテンツが・・・という作品なのではと勘ぐってしまった。
「いやいや、自分のアンテナを信じよう」と首を横に振りながら作品を手に持ち帰った。

するとどうだろうか。
なんだこれめっちゃおもしろい。
主人公をカスタマイズして、クエストに挑み、他プレイヤーと買い物競争をする。
すべてがきれいにまとまっている。
ゲームのアートワークも分かりやすく、何がどれを表現しているかがすぐに理解できる。
何度もプレイしてしまった。

Twitterで「これが強くてつまらない」等の批判を見かけたが、何度もプレイした人間から言わせてもらうとそれを許す他プレイヤー・環境が悪かったとしか言いようがない。

そんなこんなで少しでもお役に立てるよう毎回ブースに足を運び、写真だけでもと思い掲載していたところ、デザイナーの蓑竹屋様から直接「名もなき魔王 リバイズドエディションのレビューをお願いしたい」とのご依頼を頂いた。

本作は2014年に発売された作品のバランス調整を重ねたリメイクだと言う。

期待に胸を膨らませ、レビューした結果をどうぞご一読頂けたらと思う。

システム

競りを行い競りのパワーを増やす全7ラウンドの拡大再競売のオークションゲーム。
各プレイヤーにはモンスターが配られ、そのモンスターを遣い対象のモンスターを競る。

手札のモンスターは最初は少ないが、特殊効果を持ち強いモンスターの数が増えていくという仕組みだ。
しかし、モンスターが増えても遣える数は限られている。
各モンスターカードにはそのモンスターが自分のモンスターだという証として下側にスリーブを入れる。

するとモンスターのパワー値が書かれた周りが「赤」や「黄色」等、それぞれのプレイヤーカラーとなる。
カードが増えてもこのスリーブを付けられる数に最初は決まりがある。
そのためカードを増やしても「スリーブを付けられる枚数(モンスターを)」を増やさなければどうしようもない。

カードを増やすにはモンスターと同様に競りにかけられるパークのようなものがあり、これを競り落とせば自分の資金と遣うモンスターが増える。

オークション

イメージとしては欲しいモンスターを獲得するために各プレイヤーがモンスターを雇いモンスター同士で殴り合い競るようなイメージかもしれない笑
しかしながら、これが非常に戦略に富んでいて悩ましく面白い。

スタートプレイヤーから欲しいモンスターのバトルエリア(行)に遣える数のモンスターを1体ずつ配置していく。
モンスターを置ききったら、オークションが開始する。

一番左からオークションの処理を行い優先順位で解決していく
1.モンスターのパワーの合計値が一番大きいプレイヤー
2.パワーが同値の場合、「先に」モンスターを置いたプレイヤー


落札が決まったプレイヤーは遣ったモンスターに資金を支払わなければならない。
そこで支払わなければ、次点の優先権を持つプレイヤーが落札する。

つまり、相手の資金と相手が本当に何が欲しいのか勘ぐりながらモンスターを配置していく。
「あんなにモンスターを置いているけれど、その手前のモンスターを落札したらそのモンスターに支払えないのでは・・・つまり。ここにいるモンスターは囮で落とすつもりはないのでは・・・」等と考えながらモンスターを配置すると、例えば1パワー1金でもモンスターを落とすことが出来たりと、配置する一手一手が深く面白い。

そしてそれを眺めるのも非常に楽しく、色々と考えさせられるのだ。

先述した通り、パークは重要なのだがさらにこれを取らなければ失点になる。
しかし失点になっても取らないという選択肢も可能だ。
これについてはぜひ遊んで確かめて頂きたい。

モンスターにも特殊な効果があり、例えばそのバトルエリアに予めモンスターを置いておかなければ置けないが、非常に強力なモンスターや、落札に成功すると失点マーカーを相手に与えるモンスター等様々だ。

最後のラウンドまでいかに自分のモンスターを巧く構築出来るかが勝敗を分ける。

ゲーム終了

最後は競ったモンスターの左上にあるVP(得点)が一番高いプレイヤーの勝利となる。

非常に面白いゲームだが、注意点が一つだけ。

出てくるカードには限りがあり、モンスター同士のシナジーもあるために説明書最後のページに記載されたカード一覧を全プレイヤーに見せると良いだろう。

もしくは全員が未経験者なら、何も見ずにプレイするのが一番良いかもしれない。
「こんなカードもあるのか!」とドッと湧く面白さを保証する。

感想

ルールが簡単でいて深いゲームというのは作るのが大変難しい。
下手したら単調で難しく、つまらないものとなる可能性が孕んでいるからだ。。
しかし、それがもしかしたらボードゲームの一つの到達点なのかもしれない。
このボードゲームはまさにそういった要所をしっかりと詰め込まれており、「面白い」ボードゲームに仕上がっている。

昨今のゲームマーケット大賞に対して、一般参加者の投票が一次選考に反映されなかったりと懐疑的な方もいるだろう。

誰かが決めて付けるゲームマーケット大賞も良いが、自分だけのゲームマーケットの「大賞」を是非見つけて欲しい。

「名もなき魔王」はそんなお薦め出来る作品の一つだ。

インタビュー

名もなき魔王、何度も遊ばせて頂きました。
先ずは蓑竹屋、というお名前についてどのような意味を持つのかお教え下さい。
また、蓑竹屋様が立ち上げられた経緯も併せてご教授下さるとうれしいです。

お忙しい中、名もなき魔王を遊んでいただき、ありがとうございます!
蓑竹屋は読み方の通り「身の丈」屋が由来で、自分に出来ることで頑張りましょうという意味です。

私は、もともとコンピュータゲームの業界でグラフィックデザインをしていたのですが、本当はゲームシステムを作る仕事がしたかった人間です。

しかし、最近のコンピュータゲームは、何十人というチームで作ることが多くなって、グラフィック担当がゲームのシステムにあれこれ意見を出すことは難しくなってきました。

誰かの作るゲームの絵を描きたいではなく、自分のゲームを自分の絵でつくりたい。
アナログゲームなら、自分のスキルでそれが実現できるかも!と、そんな思いから作り始めてみました。


2.大変不躾な質問ですが、価格が2800円と安過ぎると思います。
システムも面白ければアートワークも綺麗で文句のつけようがありません。
このような価格設定にされた理由をお聞かせ願えませんでしょうか。

5年前に最初に作った初版の『名もなき魔王』なのですが、
小箱なのでなんとか3000円以内にしたかったというのがあります。

私の場合、ドット絵のイラストを自分で描いているので、
絵に関する制作コストは抑えられるかなと思います。

また、今回はリメイクなので、イラストの多くが流用できたこと。
最も高価なパーツだったシールが安く作れるようになったこと。
箱詰めやシュリンク包装は、手作業でできるということが分かったこと。
それらの要素で、なんとか2800円という価格にすることができました。


3.配置の優先度、競りによる競りの拡大、シンプルで大変素晴らしいゲームでした。
このシステムを考案されたきっかけ、今回再調整後の発売をお決めになられた経緯も併せてお教え下さい。

とある商業作品のオークションゲームを遊んだ時、競りのギミックはとても面白かったのですが、競り落とすカードのほとんどは得点に関係するものでした。
ただ何点になるカードという情報だけだと、個人的にはカードを競るモチベーションが弱く感じたのです。

ならば、競り落とすカードにキャラクター性を持たせ、競り落としたカードを次の競りで使えるようにすれば、さらに面白くできるかも…と想像したのが、名もなき魔王という拡大再生産型オークションゲームの出発点でした。

そして、今回のリメイクのキッカケになったひとつのエピソードをご紹介させていtだきます。
1,2年くらい前、名もなき魔王・拡張セットの通販希望のメールを受け取りました。

メールに書かれていたのは、2016年の熊本地震のとき、電源の少ない避難所に贈られた支援物資の中に初版の『名もなき魔王』があったそうです。

それを、たまたま貰った被災地のお父さんとご兄弟が、最初は何だかよく分からずに遊んでみたそうなのですが、ご兄弟が気にいってくれて、拡張セットが出てるなら通販して欲しいという連絡を、お父さんからいただいたのです。

そんなゲムマとは無縁のところで、発表から数年たった作品を遊んでいただけているというのは、とても驚きであり、同時に作者にとっては嬉しい話でもありました。

ただ、名もなき魔王は、私の最初の作品ということもあって思い入れはあるのですが、十分にバランスがとれていなくて申し訳ない…という心残りがあるタイトルでもありました。

5年たった今なら、現在のスキルできちんとゲームを見直すことができるかもと思い立ちリメイクに踏み切りました。


4.文句のつけようがないゲームなのですが一点だけ。
カードが限られているため何度もプレイしていると物足りなくなるときが御座います。
大変面白いゲームですので何度もプレイする方が多いと思いますが、
そういった方へのアドバイス等は何かございますでしょうか。

初版の『名もなき魔王』は、トレーディングカードゲームのように
拡張セットでカードバリエーションを増やしていく展開を考えていました。

そして、次のゲムマで拡張セット第1弾を出したのですが、
カードのバリエーションを増やそうとすると、カード能力が複雑になり、
1回のゲームがさらに長くなるという問題と直面しました。

拡張セットの時はラウンド数を減らして、1回のゲーム時間を短くするという解決策をとったのですが…結果としてはあまりうまくいきませんでした。

新拡張セットのご要望があり、ゲームが複雑にならないようなナイスなアイディアが思いつけたら、その時はまた拡張セットを作るかもしれません!


5.最後に何か一言お願い致します。

現在、秋に向けて新作を考えています。
私の場合、それなりに形にしてから、面白くなければボツにすることが多いので、まだはっきり言えないのですが、もし、蓑竹屋の新作を楽しみにしてくれている方がいましたら、気長にお待ちください!

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