2018年秋 ゲームマーケット ゲムマ新作 ボードゲーム「誰がために金は鳴る」のレビュー及び感想です。
デザイン C. レン イラスト 鰤尾みちる 人数 2~4人 時間 60~75分 年齢 10歳~ 価格 4000円 発売 2018秋 2018秋 ブース日-E59 予約 https://t.co/4UxeLeHBfz
はじめに
ボードゲームにはヘイト管理という概念がある。
いや、他のゲームにもそれはあるのかもしれない。
誰かがトップであった場合、その他のプレイヤーがそのトップを崩すために牽制、もしくは直接攻撃するものだ。
そうすることによってゲーム終了を阻止するものもあり、また、それを狙い漁夫の利を得る場合もある。
これはプレイヤー間がバランス調整するためにシステムとして非常に使いやすいものでもある。
しかしながらあまりそういったヘイト管理を強いるのは賛否両論であり、例えばアップテンポでとても楽しいゲームにヘイト管理があると、バランスが悪く後味もよろしくない
システムで始めからヘイト管理を主軸に置くゲームであれば良いのだが、ゲーム終盤に突然直接攻撃有りのものが来るとげんなりする。
このゲームはもうまさにヘイト管理を強いるマジョリティ争いのゲームだ。
非常に尖った作品であることは間違いない。
システム
3つの勢力を裏で牛耳る者となり、戦場を支配したプレイヤーの勝利。
ヘイト管理、マジョリティ争いに極振りしたシステム。
先ず支配地域(以下自分の場)と中央地域(以下共通の場)で一番勢力が強い種族がそのラウンドを制する。さらに、自分の場でその勢力の戦力に一番加担していればそのラウンドを勝利する。
自分の番では共通の場の勢力に介入するのだが、手札から交換したり自分の場から交換したり出来る。
しかしこれを行うためには1アクション1金が必要であり、これが非常に重くて良い。
つまりは他プレイヤーがどの位のアクションが出来るかどうかが分かり、さらに相手の場も表で出ているわけだから、勢力がだいたい何が勝つのかが分かる。
だからこそ一手が重い。
金で解決するというのもこのゲームの大きなポイントである。
実は自分の番では「金がある限り」いくらでもアクションが可能だ。
例えば5金あれば連続で5回プレイすることが出来る。
5回プレイするというのは一気に勢力が変わる。
・・・変わるが、それも相手は同じであり、さらに勢力を変えたプレイヤーがトップだったりした場合はほかプレイヤーから一斉に勢力を変えられるというわけだ。
ちなみにベットされた額は全て勝利したプレイヤーに齎されるため、考えようである。
自分が勝つためにはどの勢力が勝つかを予想し、自分の場にその勢力の戦力に加担するカードを置かなければならない。
そうなると自分の場が非常に重要になるのだが、毎ラウンドランダムに4枚配られるものと手札から一枚置き、それがそのラウンドの自分の場として置けるものとなる。
ラウンド終了後はまた4枚がランダムに配られるのだが、これだと運ではないかと思う方もいるだろう。
実はスロットという概念が有り、この特定のスロットが埋まっていなければさらに毎ラウンド追加で4枚が得られる。
つまり、共通の場を見つつ、どの勢力が勝つか、8枚から4枚を選び自分の場に置くことが出来る。
スロットは全部で5種類有り埋まっていなければ強力な効果が得られるものばかりだ。
このスロットという概念は、自分が勝てば勝つほど埋まり、使えなくなる。
つまり、勝ち越したプレイヤーは自然と弱体化を受けるというシステムとなる。
勝利条件はこのスロットの4種類を埋めて、そのラウンドで勝利すること。
スロットを埋めれば弱体化を受け、さらに他プレイヤーから邪魔されること請け合いだ。
それまで盤石な体制を整え、盤面を見据えながら臨機応変に対応して勝利を収めたい。
さらに勝利条件とは別に、条件が達成すれば獲得できるお助けカードが有る。
これも毎ラウンド代わり、盤面が常に生き物のように動いてくれるスパイスだ。
お気づきの方もいるかもしれないが、このゲームは運に見えてそうではない。
殆どが完全情報ゲームであり、いうなれば多人数で行う囲碁のようなものだ。
他にも共通の場に戦力が少ない「2戦力」のものが4枚以上あれば、一番少ない戦力のプレイヤーが勝利するという一筋縄にはいかない唸るようなシステムが随所に鏤められている。
マジョリティ争いやプレイヤーコントロール、アブストラクト(ではないが)ゲームという言葉にピンと来た方はぜひプレイすることを薦めたい。
特に最低何手か詰将棋感覚で楽しめる方にも良いかもしれない。
他にもリベンジモードもあり、ゲームプレイヤーや盤面で多くの戦略が試せる。
なるほど、これは非常に尖った「するめゲー」だ。
仲間で卓を囲み、じっくりとプレイしたい。
終わった後の感想、「どうするれば勝てたか」という話も非常に面白いだろう。
インタビュー
運によるものかと思いきや、盤面の情報だけで攻略手が導き出せられる本ゲームは完全情報ゲームのような実に痺れる体験が出来るものでした。
マジョリティ争いに本作はさらにマジョリティ争い、ヘイト管理に極振りしたようなものだと感じ、これは非常に尖った作品だなと思いました。
このような作品に至った経緯、思いなどを教えていただけますか。
作品の経緯としては、元々二重のエリアマジョリティ操作・中央を奪い合う激しいインタラクションがシステムとして先にありました。そうしたなかで離合集散を繰り返し、いずれの陣営にも属さないというシステムにフレーバーをつけようとしたとき、上から眺めるか下から見上げるかのどちらかが考えられました。
例えば、冷戦下の超大国のいずれにつくか、あるいは三国志物等の候補もありましたが、陣営の種類がこの時点で3つあり、また、あまり三国志に詳しくなかったので選びませんでした。
さらに、現実とは切り離されていることが往々にして重要視されるゲームというメディアとはいえ、ある程度世相が反映される必要があると考えた結果、ロシア・アメリカ・イスラム国が三つ巴として対立するシリア内戦を下敷きにしました。その観点から、各々の陣営のみならず市民や諸外国も、イラストレーションやフレーバーテキストとしてゲームに組み込まれました。ここに至って初めてプレイヤーの立ち位置が決まりました。
本作品でこのデザインを選んだ理由、一番デザインで好きなカードを教えて下さい。
私は表紙の右の狡猾な表情を魅せる人物と、ドワーフ「1」の戦争の悲壮感を伴うデザインが好きです。
このようなデザインの目的を達成するために、以前からボードゲームイラストを依頼していた鰤尾みちるさんを始めとするイラストレーターの方々との共同作業が不可欠でした。特にパッケージは、ゲーム風景がひと目でわかり、かつ、フィクショナルな盤面とリアルなプレイヤー(とその嫌らしさ)の二項対立の雰囲気を出すために試行錯誤を重ねました。
したがって、すべて自分の「好き」でやっているので一番を選ぶのは難しいですが、あえて決めるなら、自分がすべて担当したフレーバーテキストを一番好きなデザインとしたいと思います。色々書いたので暇なときにでも読んでいただけると嬉しいですね。
本作品は複数種類のコインやキャラクターデザインがありました。
ゲーム事態に関係のないものですがこだわりを感じるところがあります。
マネーが複数種類あるのは、彼らの地域での通貨らしく見えるよう複数の製造年と裏表別々のバージョンをつくったためです。(予算の都合上片面いんさつとなりましたが)
ついでに申し上げますと、コインの大きさはポーカーチップの直径40mmを準拠しており、金を賭ける臨場感をせめて出せるように意図しました。
キャラクターが複数いるのは趣味的ですが、フレーバーとためです。内戦において多様な立ち位置があるということを示したかったのでこのようになりました。(これも予算の都合上フレーバーテキストを削ったのでわかりにくくはありますが)
その他いろいろとこだわりがありそうですが、宜しければ教えていただけますか
ゲームを引き立たせるアートデザインの工夫に関しては、カード裏が内戦地図になっていたり、スタートプレイヤーマーカーが亜人たちの住む国の国旗模様となっていたり、色々ありますが、自由に想像して彼らの世界を楽しんでいただけると幸いです。
私は良い意味でかなり尖った作品だと感じました。
ヘイト管理をどうしても強いられる場面があるため、とても好きな方がいると思う半面、苦手な方もいるだろうと思われます。
どういった方に遊んで欲しいか、などはありますか。
個人的には多人数でやる囲碁のような所感を覚えました。
そのため、囲碁が好きでかつ、対人特有の強烈なインタラクションが好きな方におすすめできるのではないかと思っております。
ゲームシステムでのこだわりは、勝ちっ放しにならないこと、運と戦略のバランスをとることといった普通のことを意識しました。あとは拡張版である戦術カードの内容を考えるのが楽しかったですね。一枚で盤面をすべてひっくり返すようなパワーを持ちつつ、ゲームを破壊しないバランスを取るのに苦心しました。ぜひこちらでも遊んでみてください。
最後に何かあればお願い致します。
イラストレーションやゲームデザイン、酒すごろく様のレビューでピンときた方に広く遊んでいただければと思います。自分のゲームデザインの軸として、自分が遊びたい・自分と同志の力でつくれる・需要がある、の3つでやっているので、これらが重なるのは有り難く、また嬉しいことです。
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